病気の治療には原因をとり除いて完治させる「原因(根治)療法」と、単に症状を一時的に和らげる「対症療法」があるのは周知のとおりですが、近年もうひとつ「緩和ケア」という診療行為が新しく認知されるようになりました。 「緩和ケア」とは、当初は癌治療における疼痛緩和を意味する程度の言葉でしたが、最近では、すべての不治の病に対して、日々の身体的・精神的苦痛を和らげることによって、いかに毎日の生活を充実させるかに重点をおいた「生活の質を高めるための診療行為」を意味します。不治の病といっても、癌の終末期のような短期的なものから、脳性麻痺や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経障害のように長期間生存可能な病までさまざまですが、専門医の「緩和ケア」に関する注意は、単なる対症療法・延命治療ではない、「快適さと心身機能の維持」に向けられます。
例えば、食事がうまくとれない患者さんに経鼻胃管の栄養摂取を行うのも「緩和ケア」ですし、経鼻胃管を胃瘻(いろう)に変更することはさらに進んだ「緩和ケア」です。胃瘻は海外の小児医療において「緩和ケア」の考え方から生まれた治療法です。経鼻胃管ではチューブの先端位置を誤認する危険性だけでなく、挿入時の苦痛、顔面・鼻・のどの不快感があるため自己抜去してしまう問題などがありますが、それらを解決するために考え出されました。日本の老人医療でも本人が経鼻胃管の苦痛を訴えるため、ほとんどの場合は胃瘻が選ばれています。しかしながら、重症心身障害児者ではそのような訴えがないために、経鼻胃管が続けられている場合が依然少なからず見られています。
すなわち「緩和ケア」の実践にあたっては、その患者さんがどのような身体的・精神的苦痛をもっているかについて、しっかりとコミュニケーションをとることが重要です。残念ながら、重症心身障害児者の場合は「何に困っているのか」を自分で伝えることはできず、そのことが彼らの「緩和ケア」を大きく立ち遅らせています。近年、重症心身障害児者の方々は重症化しており、さまざまな医療処置を必要としています。それらのひとつひとつにおいて「もっと苦痛のない治療法や処置はないか?」をこれからもしっかりと考えてゆくことがますます重要ですし、同時に、気づかれていない身体的・精神的苦痛をできるだけ発見し解決する気持ちを忘れずに、毎日診療したいと思います。